取材協力:井上ボーリング
これまで当サイトで、SRを通じたさまざまなライフスタイルを提案してきた井上ボーリングは、アルミメッキシリンダーを採用した「ICBM®」で高い支持を集める内燃機メーカーでもある。今回、そんな井上ボーリングから、注目のパーツがリリースされたので、詳しく紹介したい。/SAGAYAN
SR400のエンジンチューニングといえば、500純正クランクを投入した「500cc化」が大定番。たしかにロングストロークによって、1発1発の爆発を感じることができる500cc化はSR本来の魅力を引き出すことができる方法のひとつだといえるだろう。
しかし今回、井上ボーリングがアプローチしたのは、定番とは全く異なる方法……排気量は400ccのままで、こちらもまた、SR本来の楽しさを引き出しているという。そう、それが「軽量クランク」である。
同社スタッフの大澤さんが言う。
「じつは400のエンジンは、これはこれでショートストロークですし、振動も少なく、大変面白いエンジンなのです。そこで、500ccにするだけがSRのエンジンチューニングと認識されている現状を変えるべく、井上ボーリングとして何かできないか……を考えたときに出たのが400ベースの軽量クランクだったのです」
意外と知られていないことだが、じつは500よりも400クランクの方が重い。おそらく400の方はトルクを稼ぐためにあえて重くしているようなのだが、井上ボーリングでは軽量化を果たしつつもトルクを極力スポイルしないように開発に取り組んだとのこと。その成果が、独特の「斧型」なのである。大澤さんが続ける。
「クランクを開発するときにはスタティックバランス(静止バランス)を重視しなければならないのですが、軽くしようと思えば棒状にするのがベストなのです。だけど、そうするとトルクがスカスカになってしまう。その絶妙なバランスが斧型なのです」
純正クランクが7.6kgなのに対し、同社製軽量斧型クランクは5.6kg。じつに2kgもの軽量化に成功している。
当然、ただ軽くすれば良いというものではなく、先端が細い「ナイフエッジ構造」となっている点にも注目。これは、クランクが回転してケース底部のオイル溜まりに入るときの抵抗を減らすためのもの。よりスムーズに回転できるのだ。また、クランクの体積が減ることによってケース内の圧力も低下し、この点でもまた、より抵抗の少ない状態でクランクを回すことができるという。
さて、こうして開発された軽量斧型クランク……エンジンのパワーアップにかなり貢献するのでは? という僕の質問に対し、井上ボーリング・井上社長は首を横に振る。
「軽量斧型クランクが目指すものは、パワーではなく乗り味です。イメージするとすれば、旧い2ストローク単気筒エンジンのような……決してハイパワーではないけれど、エンジン自体が元気で、回していくと『もっと回してくれ!』とエンジンが訴えてくるような、そんな『回して楽しめるエンジン』なんですよ」
これはまさしく、井上社長が常々、当サイトのエッセイで訴えている価値観! 「速さではなく乗り味を内燃機加工で変える」という井上ボーリングのチャレンジは、ICBM®と並び、軽量斧型クランクにおいてもまた、多くのライダーに新たなSRの魅力を与えてくれることだろう。
職人が1点ずつ部品をチェックし、さらに芯の振れをほぼゼロまで芯出ししているため、中古クランクがベースといえども、精度の高さは新品以上。
先端をナイフエッジ構造にすることで、クランクケース底部のオイル溜まりに入るときの抵抗を極力少なくした。ほかにも、上部の厚みを残すことで耐久性を確保するなど、長年、内燃機に携わってきた知恵と経験が詰まっている。
削れるところはトコトン削りつつ、耐久性と軽量化を両立。極力トルクを損なうことなく、低回転から高回転までスムーズに吹け上がる、元気なエンジンを作ることができる。
純正400クランクの重量は7.6kg、対して軽量斧型クランクは5.6kg。2kgの重量差がもたらす乗り味の変化は大きい!
専用の切削プログラムが施されたマシニングセンターを用いることで製品個体差はなく、切断面も綺麗な曲面となっている。ビッグエンドベアリング、コンロッド、クランクピンは新品を使用する。
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