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2018.05.06

iB軽量斧型クランクとアルミメッキシリンダーICBM®を投入したRural Racerはどう変わったか?

iB軽量斧型クランクとアルミメッキシリンダーICBM®を投入したRural Racerはどう変わったか?


取材協力:井上ボーリングナインゲート
写真:井上 演

 

ムック本「The SR Times vol.1」でフルオーバーホールを施した僕の愛車・Rural Racer。せっかくなら排気量400ccのまま、世界一面白いSRエンジンを作ろうということで、前々から狙っていた井上ボーリングの軽量斧型クランクとアルミメッキシリンダー「ICBM®」を投入。本では締切の都合上、装着後のインプレッションができなかったが、先日(というかだいぶ前だけど)ようやくセッティングをはじめ、諸々の環境が整ったので、東京都と山梨県の県境・奥多摩地方で走らせることができた。しかも今回は井上ボーリング・井上社長と大澤さん、そしてエンジンを組んでくれたナインゲート・細井さんなど、お世話になった方々にもRural Racerに試乗いただき、率直な感想を聞いてみた。/SAGAYAN

どこからでも回るトルクバンドの広さと
2ストロークのような高回転域の伸び!

アルミメッキシリンダー「ICBM®」と軽量斧型クランクで組み上げたRural Racerは、純正400エンジンとはまったく別物。トトトトっとアクセルを開けると素直にトルクによって加速していく純正の特性とはうってかわって、アクセルを開けるとマシンはそれ以上の加速を見せて、エンジンはどこまでも回っていくかのよう。絶対パワーは決して高くはないのだが、アクセルを開ける楽しみがある。僕は常々「バイクは時速100km以内……つまり法定速度域でいかに楽しめるかに価値がある」と思っている。そういう意味では、新生Rural Racerはまさしく僕の好みにぴったり! 「法定速度域内のファンタスティックマシン」といえるマシンに仕上がったのだ。

クランクを軽くするということで懸念されるのがトルク不足だが、Rural Racerではほとんど気になることはなかった。まあ、それは以前、井上ボーリングのデモマシン「SR-ICBM for VMX」を借りたとき(※参照記事はコチラ)に分かっていたこと。しかも今回はキャブレターはCRφ33、マフラーはスーパートラップ(皿9枚)でトルク対策も万全! 結果、低回転から高回転まで元気よく回るエンジンとなったのだ。


編集長・SAGAYANの愛車【Rural Racer】。2010年、神奈川県座間市のM&M’sモーターサイクルにて購入。SRとは思えないコンパクトさが魅力のマシンだ。

 

そして今回は、「これだけ楽しいSRを僕が独り占めするのは勿体無い! せっかくだから井上ボーリングの井上社長と大澤さん、そして組んでくれたナインゲート・細井さん、さらに業界一のSR好きカメラマン・井上ヒロムさんにも乗ってもらって、ぜひその感想を聞きたい!!」と思ったわけ。というわけで、奥多摩地方のとある場所に集合し、みんなでわいわいガヤガヤと大試乗会を開催! その後、お昼ご飯を食べながらの座談会となった。

 


SAGAYAN「法定速度内をこれだけエキサイティングに走れるマシンはなかなかないですよ!」

 

SAGAYAN(以下、さが)「さて、皆さんに一通り乗ってもらって、それぞれ自由に感想を伺いたいと思います。でも、その前に改めてRural Racerの仕様をお伝えしますね……」

排気量:399cc(純正同様)
シリンダー:アルミメッキシリンダー「ICBM®」
ピストン:ワイセコφ87/圧縮比:12:1(500cc時)
クランク:iB 軽量斧型クランク
キャブレター:ケイヒンCRφ33
エキゾースト:スーパートラップ(9枚)

 


大澤さん「軽い! 勾配のある山道でも不満なく走れたのが嬉しいですね」

 

さが「まずは大澤さん、いかがでした?」

井上ボーリング・大澤さん(以下、大澤)「吹け上がりが軽いですね! 正直、今回のワインディングは勾配がけっこうあって、上りはどうかな? と思っていたのですが、そういう心配もなく、下から上まで良く回った。トルクが少ないと感じることはありませんでした」

ナインゲート・細井さん(以下、細井)「本当に軽いですよね。ここまでになるとは思いませんでした」

さが「トルクが損なわれていないという印象は、僕も受けました」

井上ボーリング・井上社長(以下、井上社長)「このクランクの狙いとしては、なるべくトルクを損なわないように……その点に関しては一所懸命に開発しましたからね」

大澤「クランクを軽量化しようとすると、普通は全周を削ります。ただ、削りすぎると上は回るけれど、下はスカスカになってしまいます。そこでカウンターウエイトを残して軽量化したのが、この斧型クランク。狙いとしては、トルクを損なわないで高回転まで回るエンジン、ですね」

カメラマン井上さん(以下、ヒロム)「それって、適度な遠心力を残すということですか?」

 


井上社長「ものすごく面白くて愉しい“スポーツバイク”になっていますね!」

 

井上社長「そうですね。軽量化にあたって外周から削っていっちゃうと、モーメント(回転力)の大きいところを取ることになりますよね。だけど現状の斧型クランクは一方の外周は端まで残っています。つまり、モーメントの大きいところは残っているということ。先端を尖らせて斧型にしたのは、回転時にクランクケース内のオイル溜まりに入ったときに、なるべく抵抗にならないため。こうすることでなるべく振動は少なくて、全体の重量はずっと軽くて、それでいてトルクはなるべく残る……そういうエンジンを作るのが狙いなんです。400純正は400純正で良いエンジンですよ。だけど、それはそれとして、じゃあ400のままで、もっと何かできることがあれば面白いな、と作ったのがこのクランクですね」

ヒロム「僕は自分のSRとついつい比べちゃうんですけど……僕のSRは418ccで条件は似ていると思いますが、『圧倒的に違うな』と思ったのは僕のは10:1ピストン/500cc時(ワイセコ)に400クランクなんで、実質ノーマル400よりも圧縮比は下がっているんです。で、Rural Racerは12:1ピストン/500cc時ですからね。その差はとてつもなく感じましたね(苦笑)。でも、じゃあ高速道路を一緒に走っていて自分がしんどいかというと、そんなことはなくって。朝、高速道路でたまたま合流したんですけど、僕のSRがしんどいというのは全然ないんですけどね。ただ特性は明らかに違う……そして、この回り方はやっぱり羨ましい(笑)。僕のSRよりもパンチがあるのに、さらに軽々しく回っていきますからね。SR400エンジンのチューニングとして、ひとつの完成形といっても良い気がしますね」

さが「おぉ、なんだかめちゃくちゃ褒められて、オーナーとして嬉しいです(笑)。でもたしかに回り方とパンチの強さは、このエンジンの最大の特徴ですよね」

 


井上ボーリング・オリジナルの軽量斧型クランク。SR400の性格を大きく変えてくれる逸品だ。

 

ヒロム「回っていくだけじゃなくて、一般的にハイカムを入れたチューンドエンジンって、明らかにパワーがあるところでガクッと落ちる“山型”なのに、Rural Racerは“台形”なんですよね。パワーが落ちずに、ずーっと出続けているイメージ。その出方もピーキーではなくて素直で、なんだかずーっと巨人に背中を押されている感じですね(笑)」

井上社長「そこは大事なところでしてね。『巨人に押されている』なんていうユニークな感想もいただいて、そうした感じ方は人それぞれで面白いところなんですけど、井上ボーリングの狙いとしてはまさしく軽量化によって高回転を楽しんでもらおうということで、実際にそうなっているかは別にして、『中速よりは回したときのほうが少しは元気だ。だから少しでも回していきたい』というエンジンを作りたい。要するに、回せば回すほど『ビィーン!』と唸ってはいるけど頭打ちしている……というのではなくて、できれば中速で走っているよりは回していったほうが元気だなー、と。もちろん400ccのままだし、そんなにパワーがどんどん大きくなるわけじゃないんだけど、『ちょっと回したほうが元気がいいなー』とライダーが思えるところがあると、回すことが楽しいエンジンになるんじゃないかな、と思うんですよね」

さが「たしかに回せば回すほど面白いエンジンにはなっていると思います。だけど、加えてRural Racerは、けっこう下からもりもりパワーがあるようにも感じました」

井上社長「そう、じつは井上(ヒロム)さんがおっしゃっていた“台形”というのが気になっていて……。SR-ICBM for VMXでは『回したほうが元気がいい』、『回した方が愉しい』という味付けには成功したと実感していたのですが、どうもRural Racerでは印象が違うような(苦笑)。今回、Rural Racerにはハイコンプピストンが入っていますが、やっぱり高圧縮だから低回転から力が出る。それと同じ理由で高回転域は重くなる……という性格になるのかなぁ、と思ったのですが。だけど、そうすると斧型クランクの性格とは真逆……お互いが特性を打ち消しあった結果、下からドッカンとパワーが出る『台形』という印象になったのかな? と思ったのですが、いかがですか?」

 


細井さん「コンパクトでスポーツ性が高く、乗って楽しい車体に仕上がったと思います」

 

細井「いや、僕も井上(ヒロム)さんと同じ意見なので良く分かるのですが、“台形”というのは頭打ちという意味ではないと思いますよ! 前提として、このエンジンはノーマル400と比較しても断然元気があって、回して楽しいエンジンですよ。で、『回して楽しい』というのは、僕個人の考えでは『もっと回したくなるエンジン』ということ。つまり天井知らずに回っていくフィーリングで、Rural Racerにはそういうフィーリングを感じました。だから、十分に井上社長が狙っているエンジンに仕上がっていると思います」

さが「じゃあ、台形というのは?」

細井「僕も“台形”という表現には賛成で、つまり、たとえて言うならホンダ・NSR250Rのような感覚。他社のレーサーレプリカでなく、あくまでもNSR250R。低回転域はピックアップも良く、中回転域もタレてこない。トルクバンドの広いエンジンに仕上がっているというのが率直な感想です」

さが「それってCRキャブの影響が大きいのでしょうか?」

 


Rural Racerのエンジンの性格づけに大きな影響を及ぼしたのがCRキャブレター。今回は「スモールボディー」と通称されるφ33をチョイスした。

 

細井「その可能性が十分にありますよね。あとはスーパートラップのディスクの枚数も原因のひとつかもしれませんね。ともかく、“台形”という表現は、あまりにも低回転域が良く感じてしまったので、『上がもうちょっと欲しい!』と思ってしまったという欲張り的な発想です(笑)。僕の考えをまとめると……NSR250Rのようなフラットでトルクバンドの広いフィーリングを持っているけど、やっぱり2スト的! 上まで回してナンボのエンジン、ということでしょうか」

さが「NSR250Rかぁ……たしかに乗りやすくて、回して楽しい……Rural Racerと同じかも!」

井上社長「まあ、実際にRural Racerはキャブが違って、ピストンがハイコンプでものすごく元気で面白くて、はじめて乗った時はびっくりしちゃいましたよ。それでいて、車体とエンジンがよく合っているのもいいですね。エンジンがキビキビしていて、車体がレーサーっぽくてハンドルも小さくて幅が狭くて、タンクも小さくて、全体的にすごく小さくてコンパクトな車体にあのエンジンが載っていて、本当にSRじゃないみたい(笑)。スポーツバイクに乗っているみたいな感じがして、すごく面白かったのは確かですね!」

ヒロム「僕も今回のハイコンプピストン×斧型クランクで得たフラットなパワー特性は、他には変えがたい素晴らしい組み合わせの愉しいエンジンだと思いますよ。実際に僕のSRよりも軽々と高回転まで回っていることを考えると、“軽快に回る愉しいエンジン”であることは間違いないと思います。“台形”というのは、ハイコンプピストンによってパワーの谷が無くなり、ダイレクトな加速感を手にしたということ。普段乗るには最高のエンジンになったと思いますね!」

 


皆さんに絶賛いただいた自慢のエンジン! 振動がちょっと気になるけれど、Rural Racerはびっくりするくらい軽いので(オールFRP外装+バッテリーレス)、致し方ないのかも……。

 

さが「なんだか、皆さんで僕のSRをじゃんじゃん褒めていただいて、ありがとうございます(笑)。だけど、ひとつ気になるのが振動ですね。もともとRural Racerはノーマルエンジンなのに純正SR400に比べると振動は大きかったのですが……それにしても、今回はさらに増えました」

細井「組んだ僕が言うのもどうかと思いますが……ちょっとすごいですよね(苦笑)。だけど、これは純正SRとの相対比較にはならないと考えています。なぜなら、Rural Racerには“制振”させるパーツが一切装着されていないから。僕も経験がありますが、SRの場合、リヤフェンダー1枚取っただけでもものすごい振動なんです。SRの場合、各パーツが“制振”の役割も果たしています。なので、僕はRural Racerの振動が多くなるのはある意味で必然だと思います」

さが「ガーン!」

細井「(笑)。また、今回はワイセコピストン+斧型クランクなので、純正ピストンよりも軽量で、かつ軽量クランクによる2次振動も純正より出る方向になったのではないのかなと思いますね。純正は上下方向への振動が大きいですが、今回は上下ではなく、前後方向へも少し出ているのかもしれません。これには振動を計測する機械が無ければ数値として表すことは非常に難しいので、あくまで所見ですが……」

さが「でも、乗っているうちに徐々に振動は減っているんですよね。各パーツが馴染みだして、1,000kmくらい走れば、もっと減るんじゃないと期待しているんですけどね(笑)。他に気になったところはありますか?」

細井「さっき言ったように、Rural Racerは『上がもうちょっと欲しくなる』という欲張りな仕様なので、さらに上を気持ちよく回すためにハイカムを組んでみたくなりますね。ハイカムを組み込むことで更に上でパンチを効かせて、“カムに乗る”フィーリングを手に入れたい! そうすると、純正よりも遥かに乗って楽しい、高回転域をもっともっと使いたくなっちゃう仕様になると思いますよ」

さが「えー! エンジンを組んでもらったばっかりなのに、またエンジンを降ろしますか!? それはとりあえず……2年くらい乗ったら考えます(笑)。今回は皆さん、ありがとうございました!」

 


ピストンばかりが話題になったけど、じつはシリンダーの冷却効果も特筆のポイント。真夏になったら、油温計をつけて実測ツーリング企画でもやろうかな。

 

ちょっとしたパーツの組み合わせで大きく変わる!!
奥深いエンジンチューニングの世界!

補足すると、今回Rural Racerにワイセコピストン12:1(500cc時)を入れたのは高圧縮にしたかったのではなく、ワイセコには「12:1(500cc時)」と「10:1(500cc時)」しかラインナップがなく、後者を入れると純正400よりも圧縮比が下がってしまうから。せっかく軽量クランクを入れるのに圧縮比が下がるのはもったいないということで、前者を選択したのだ。(ちなみにカメラマン井上(ヒロム)さんは後者のピストンをチョイス)

純正鋳造ピストンよりもワイセコの鍛造ピストンの方がアルミメッキシリンダーとの相性が良く、それでいて圧縮比を下げたくないからという理由で選んだピストンだったが、想像以上に特徴のあるエンジンに仕上がった! そして、それと同時にやっぱりハイカムを入れた方がいいという流れに!? でも、たしかにハイコンプピストンを入れるのだから、カムシャフトもハイリフトにするべきだったよな~。まあ、それは次回のお楽しみということで……Rural Racerのカスタムは、まだまだ続くのであった。

 


今回の試乗・対談メンバー。左から井上ボーリング代表・井上壯太郎さん、当サイト編集長・SAGAYAN、井上ボーリング SR担当・大澤 薫さん、ナインゲート代表・細井啓介さん。さらに撮影を担当したカメラマン・井上 演さんにも、今回は試乗と対談に加わってもらった。

 

 

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