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特集
2018.02.27

ESSAY…井上ボーリング 井上壯太郎/「ソロ・ツーリング」

ESSAY…井上ボーリング 井上壯太郎/「ソロ・ツーリング」

まだ寒い時期ではありますけどね。一年の寒い時期に一度はバイクで遠出をしておくのは、僕には必要なことのように思えるんです。「寒いからバイクには乗れない。」そう思いたくないんです。
僕は乗りたくなったらどんな時だってバイクには乗る。そう言いきるためには寒さなんかに負けていてはダメだと思うんです。なので、今回はあまり厚着もしないで、電熱グローブもしないで走り始めてしまいました。

失敗したかなあ。また、あまりよく準備もしないで走り始めてしまった。どこへ行くかもよく決めてません。

「とりあえず圏央道を南へ行ってみるよ。」

妻にはそう言ってありました。圏央道で目についたSAに停まると妻からiPhoneにメッセージが入っていました。

「七里ガ浜にPACIFIC. DRIVE-IN というオシャレなカフェがあるそう。フォト友の青山さんがよく行くみたい。もしそちら方向だったらどうかなと思ってね(╹◡╹)」

へー、そうか。ありがたい。

でも、な〜。今日は妻と行くときに選ぶようなオシャレなカフェというよりは、通りすがりの汚い定食屋にでも入りたい気分。そう思いながら僕は七里ガ浜を通過してしまいました。せっかくだったのにすまないね。

江ノ島から七里ガ浜、由比ヶ浜、そして葉山。このあたりは以前は月に2回は来ていました。FM鎌倉というコミュニティーFMで、iBの提供する1時間のハワイアン番組をやっていた時期があったんです。

今日も一箇所だけ海の見えるところでバイクを止めて、海を眺めてみました。暖かい日です。ウィンドサーファーやSUPが出ています。鎌倉でカイトサーフィンのショップをやっていた大学の同期が海で死んでから、もう5年にもなるんだな。湘南に来るたびに思い出す。オシャレなカフェも美味しいお蕎麦屋さんも遠くに江ノ島を望むレストランもいろいろあります。でも、今日は僕はどれも通過してしまいました。

ひとりでバイクで走ることの自由さを、僕はこんな時に感じます。なぜせっかくの綺麗な海や素敵なカフェを素通りしてしまうのか。そんな理由を誰に説明する必要もありません。ただ、止まりたくなければ走り抜ければいいだけです。

だって、そんなのうまく説明できませんよ。説明したくもないし。

小さな会社とはいえ、それを営んでいくということは、自分以外の多くの人の都合を優先するということです。従業員に気持ちよく働き、幸せになってもらうためにはどうすればいいのか。優しくするだけではなく、時には厳しく育てなければ、人として成長させてあげることはできないでしょう。もちろん多くのお客様の満足を第一に考えなければなりません。仕入れ先などの取引先を大事にすることなしに円滑な企業運営はできないでしょう。金融機関にも我々がやっていることの意義や可能性を理解してもらわなくてはなりません。そんないろんな事情を優先したうえで、それでも自分が目指す経営上の夢や目標も実現していかなくては、事業を営む意味がありません。

それはとてもやりがいのあることです。多くの人を巻き込むことで自分一人では到底できないようなことができていくかもしれません。でも! だからこそ。

やはり時には一人になりたくなるんです。

それにはバイクでソロ・ツーリングに出るのが一番です。マス・ツーリングもそれはそれでとても愉しいですが、バイクが与えてくれる最大の価値、「自由」を少し損なう面があります。第一に他の人のペースに合わせて走らなくてはなりませんよね。

電車や飛行機なんて考えられません。時刻表や予約やそんなものに縛られて、なにが自由な旅でしょうか。僕はここで右に曲がりたいと思ったその時に右に曲がりたいし、夜明けだろうが深夜だろうが誰のペースにも邪魔されずに思い立った瞬間に走り出したいんです。クルマでも悪くはありません。でも、風にあたらず光も浴びずに空調の効いた室内で音楽を聴きながら移動したい時もあるけど、そうではない時が間違いなくあります。

なかでも風の温度を遮断してしまうことは、楽なようでもありますが、言語道断なことでもあるように思います。旅に出て季節を感じずに過ごすなんて意味無くないですか? 一番に季節を伝えてくれるのは、風の冷たさや暑さですよね?

バイクでは走っている間中、その風が・季節が体を吹き抜けて行くんですよ。

三浦半島も逗子・葉山のあたりは馴染みがありますが、そこから先にはあまり行ったことがありません。僕はなぜかそちらに脚を伸ばしてみたくなりました。葉山から高速に乗り、半島の先端を目指して走り、着いたのはフェリー乗り場。ちょうど放送があってすぐにも乗船できると言うんです。「バイク・二輪車のお客様は乗用車よりも先のご案内になりますから、準備をお願いします。」ですと! 気づくと僕は南房総行きのフェリーの上でした。

フェリーボート! バイクと一緒に海の上へ! なんだか愉しい!! 少年が大喜びしそうなシチュエーションだな。いや、喜んでいるのは自分じゃないか。そう、半島をバイクで旅していると、ずっと海を眺めて海岸線を走って行くことになりますよね。僕はいつも半島を走る自分を海の側から眺めてみたい衝動に駆られていました。それが実現します。海の向こうに半島を形成する山並みと海岸線とそこを走る道路とクルマやバイクが見えている。そう。こういう風に半島を眺めてみたかったんです。望みが叶いました。

対岸の千葉に着くと、高速は選ばずに海沿いの国道を走ることにしました。そして走って行くと僕には彼方に小さな入江の水面が光っているのがちらっと見えたんです。

「あ、絶対あそこに行ってみたい!!」

そう思うと僕は入江に通じていそうな道を探して、軽自動車も走るのが厳しそうな小径をみつけて、国道から折れ込んでそこに思い切って入って行きました。排気音をできる限り抑えるようにして。

民家の間をすり抜けるようにしばらく進むとおばあさんが家から出てきたところでした。思わず「すいません!」と詫びるように挨拶をすると、おばあさんは無言でにこやかに顔をあげてくれました。

「こんにちは! この先の浜まで行って写真を2、3枚撮ってみたいんですけど、だいじょうぶですか?」
「いいけど〜!行っだっでぇ、な〜にもないよ〜!」
「いえいえ、いいんです。じゃあ、ちょっと一休みさせてもらいますね! ありがとう!」

砂浜で本当に数枚の写真を撮って、それからすこしの間、僕はぼーっと海をながめていました。

この近隣の集落の人だけが使う隠れた入江。2隻の船が上げ下ろしできるスロープになっています。ジェットスキーも1台。船を出せば魚も獲れるんでしょうか。でも、本格的に漁業をしている様子ではありません。使う人もあまりなく、訪れる人なんて絶対にいなそうな小さすぎる港。でも、ここから船を出せば東京湾へ、そして太平洋にも出て行くことはできるでしょう。僕は、「自分が持っているボートをここへ浮かべたらどうだろう。このあたりの暮らしってどんななんだろう」。そんなことを考えていました。冬の終わりに爽やかな空と海が目の前に広がっていました。

僕には、目的地などとは誰も呼ばないようなこの小さな入江と砂浜が今回の旅の目的地であったことがわかりました。こんなところに僕は来たいんです。こんな日本を僕は発見したいんです。

ロードモデルじゃあ、この砂の上にバイクを乗り入れる気にはまずならないでしょうね。僕はこんなことができちゃうこのSRが本当に好きです。高速も走れて距離が稼げて、でもこんな路地にも砂浜の上にも平気で出られるVMX風味のSR。

僕がバイクに求めるのはこんな自由です。他のどんな乗り物にもこの真似はできないですよね?

バイクが速くないと嫌な人がまだまだ多いようですけど、そんなことなんの意味もないと僕には思えます。お金をかけて速くしたってなんにも得られるものなんてありません。バイクの良さが何なのかを考えてみれば、どういうバイクに乗りたいのかは自ずと見えてくるはずだと思います。

僕は自分の乗り方・使い方に、つまりは僕の生き方にぴったりのバイクを持つことができて、ほんとうに満足です。僕はバイクがほんとうに大好きです。出かけるたびにそう思います。バイクの素晴らしさを知らない人が気の毒に思えて仕方がありません。

旧いバイクに自分が望むように手を入れて、そいつと一緒に旅に出ること。それが人を本当に自由に幸せにしてくれることを僕は知っています。季節を味わい、日本を味わう最高の方法。それがバイクに乗って旅に出ることだと思います。

EV車や自動運転のクルマに注目が集まる時代に、あまりにも原始的で素朴なオートバイという乗り物に乗ることは不思議なことに現代の日本でも許されています。こんなに自由な乗り物を今のうちにできるかぎり乗っておかない手はないと思います。でも、これは僕たちバイク乗りだけの間の秘密にしておきましょうかね。ははは。

「エンジンで世界を笑顔に!」(株)井上ボーリング

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協力:(株)井上ボーリング

著者プロフィール
inouesotaro
(株)井上ボーリング
井上 壯太郎(いのうえ そうたろう)
創業63年、(株)井上ボーリング代表。エンジンのついた乗り物が大好き。仕事もエンジン、遊びもエンジン。トライアル・モトクロス・ロードレース。バイク以外ではボートを使って水上スキーやウェイクボード。現代世界はエンジンでできているのです!

 
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