取材協力:ツーパーセンター
聞き手:佐賀山敏行(SRタイムズ編集部)
高校生の頃からバイクに乗り出し、カスタムも自分で行っていたという山口さん。大学生でチャックボックスに丁稚奉公として修行し、いよいよ大学卒業というとき……チャックボックスへの正式な就職が決まり、プロとしてのキャリアがスタートした。
前編はコチラから→https://mototimes-web.com/twopercenter-a.html
編集部・佐賀山(以下、編) ― チャックボックス・藤居さんに誘われたことが大きなキッカケとはいえ、人生を決めることになる「はじめての就職」が、ただ誘われただけ……ではないと思います。
山口隆史さん(以下、山口)「そうですね……学生当時はよくツーリングに行ってたんですよ。ロングにもめちゃくちゃよく行ってたんですけどね。それこそ長野や九州、北海道にも2回行きました。丁稚奉公しながらだったんで、本当に大変だったんですけど(笑)。でも、北海道に行った時に、自分が手を入れたバイク、自分が超気に入っているバイクで旅に行くって、すごい幸せなことやと感じたんですよ。そのときに、『しっかりしたバイク屋さんになって、この楽しいことを皆んなに伝えたいな』と思ったのが大きな理由。自分のなかの一番でかい根っこは、そこですね」
編 ― ただかっこいいカスタムバイクを作るだけじゃなくて、「旅」が山口さんのバイク感にはプラスされている?
山口「そうですね。かっこいいだけやったら鉄工所1年生でも作れるじゃないですか」
編 ― たしかに……。その根っこの部分は、今も変わらず?
山口「もちろん時代に合わせて、ストリートでも楽しめるものだったりという要素はどんどん入れていきますし、自分が見たもの、感じたものをどんどん入れていきますけどね。でもやっぱり置き物みたいなバイクで、人が乗りにくくて、機能的にダメだというやつはナシですね」
編 ― でも最近、ハードテールを推してますよね?(←挑発的w)
山口「そうそう、ハードテールの話にも通じるんですけど、あれだってめちゃくちゃ考えてるんですよ! 僕はもう『乗られへんバイクはバイクじゃない』っていう考えが強いので……まあ、ハードテールの話はあとでゆっくりしますよ(笑)」
編 ― お願いします(笑)。でもたしかに山口さんて、実際に今でも北海道とかに行かれてますもんね。
山口「今年(2018年)は行けてないけど、その前は4年連続で行きましたね」
編 ― やっぱり今でもツーリングは欠かせない?
山口「今となっては商品の耐久テストとか、自分の組むバイクの弱点を調べるためとか……半分は仕事になってますけどね(苦笑)」
編 ― 具体的には?
山口「ちょっとしたことが多いですけど、たとえばレバーの向きがもうちょっとこうだとか、ステップも今は満足しているけど、もうちょっと前に置いたらどうなるんだ? とか。楽しむ半分、耐久半分。それに自分試しという要素もあるかな……『俺はちゃんと仕事をできているのか』という……」
編 ― 遊んでいるだけかと思いきや(←失礼)、じつはストイックなツーリングなんですね。
山口「ちゃんと半分は楽しんでますけどね(笑)」
編 ― 話を戻しますが……えーっと、結局チャックボックスにはどれくらいいたんですか?
山口「2年半の丁稚奉公が終わってから、そのあと丸5年。合計7年半くらい」
編 ― チャックボックスでSRにハマった?
山口「そうですね。僕は国産アメリカンからバイクに入ったけど、SRの魅力にヤラレちゃいました。それでチャックボックスが正月休みのときに警備と現場のバイトを掛け持ちして、SR500を買ったんですよ」
編 ― それがはじめてのSR?
山口「そうですね。給料が安かったんで、SR欲しいからバイトして買いました(笑)」
編 ― それって、SRタイムズでも紹介したやつですか?
山口「そうそう! 結婚祝いと出産祝いとして、親友にあげました」
編 ― 思い出のバイクをお祝いに……って、なんかいいですね!
山口「でしょ?(笑)。お金で売るのが嫌だったんで、こいつならいいやと思ってあげたんですよね」
編 ― 山口さんが考えるSRの魅力って何ですか?
山口「今はまた考え方がちょっと違うんですけど……やっぱりオートバイらしさがありますよね。ビラーゴとかは見た目をやりきっちゃえば終了なんですけど、SRはキャブを変えたりとか、エンジンのなかをイジってみたりとか、メカニック的な楽しさがたくさんあるのがいい。それまでは外装がかっこよかったらいいやと思っていたけど、SRはもっと楽しめる。はじめてFCRをつけた時はマジで感動しましたよ。『こんなに変わるの?』って(笑)」
編 ― その感動はわかります。たしかにSRはエンジンや吸排気をいじれるし、しかも空冷単気筒だから比較的安く、でも効果は大きく出せますもんね。では、スタリング的にはどうでしょう? チャックボックスといえばロッカーズが思い浮かびますが、いま、山口さんからはそういうイメージは一切ないです。
山口「僕はまあ、チャックボックスでは金属加工を覚えたかっただけというのが本音なので(苦笑)。ただ、あの時に学んだことは、どんなスタイルでも……カフェ、トラッカー、ボバー、チョッパー……絶対的にかっこいいものとかっこ悪いものがある。それはたとえば旧車會だろうがレーサーレプリカであろうが同じ。モノとしてかっこいいもの、かっこ悪いものというのが絶対にあると思うんです。チャックボックスでいえば、佐賀山さんがおっしゃるようなロッカーズスタイル……60年代イギリスのライトブチ上げ系が一番多くて、たまにイタリアンっぽいのもあったり……どちらにしろ、やっぱり作り方が他とは違うし、藤居さんの作るバイクはカフェ系のなかではダントツにかっこいいと思う。自分がバリバリのロッカーズスタイルに乗りたいとはまったく思わなかったけど、その辺りのことを勉強しましたね」
編 ― なるほど。かっこよさの法則みたいなことですね。
山口「そうそう。僕は人とは違うもの、個性的なものを作りたいとずっと思ってきたけど、王道のカフェレーサーも数えきれないくらい作りましたし、そのなかで『かっこよさとは何か?』みたいなことは学びましたね。それに王道だけでなく、チャックボックスで昔、スポタンつけたカフェレーサーとかが何台かあったでしょ? あの辺は全部、僕がお客さんとしゃべって作ったバイクなんですよ(笑)」
編 ― 覚えてます(笑)。僕もカスタムバーニング時代、たまに「チャックボックスらしくないなぁ……」と思いながら、写真を選んでましたよ」
山口「あははは(笑)。ですよね。」
編 ― チャックボックスを辞めたあとは?
山口「ハーレー系のカスタムショップでちょっとだけ修行して、そのあと、転機があったんですよ!」
編 ― おぉ!
山口「これまではカスタムショップ、そのあとのハーレー系もカスタムとかパーツ屋さんって感じで、だけど僕はもっと整備とか修理を覚えたいと思っていたんです。それで、京都でも一番厳しいと言われているハーレーディーラーで修行しようと思って入りました」
編 ― ほぉ!
山口「だけど、ここがほんまに厳しくて厳しくて……めちゃくちゃ厳しいんですよ」
編 ― 「厳しい」が3回出ましたね(笑)。
山口「いや、ホントに強気な僕でも何回も泣かされて、帰らされたんですから。それが2年半くらい」
編 ― ストイックですねぇ。
山口「昼間にそのディーラーに勤めてたんですけど、ちょうどその頃に個人的にバイクを作ってくれっていう人がすごい増えたんですよ。それでチャックボックス時代からちょいちょい溶接機とかボール盤とかは買ってて、農機具小屋で自分のバイクをいじってたんです。その場所があったから、そこでカスタムバイクを作りはじめた」
編 ― じゃあ、ディーラーとプライベートカスタムを並行していた?
山口「そう。だけどこのままじゃ3年経ってもオーダーが裁ききれないという状況になってしまって……」
編 ― 独立?
山口「最初は僕と同列くらいのポジションで人を雇って立ち上げたんですが、やっぱりそういうのはよくない(笑)。すべて自分で出資して4年ほどやりましたが、考え方の違う人といっしょにやっていると自分の理想のバイク屋とどんどんかけ離れていっちゃって……なので前のお店も屋号も捨てて、2011年に改めて2%ERを立ち上げました。さいわいお客さんもその他のスタッフもみんなついて来てくれました」
編 ― いよいよ2%ERのスタートですね! ところで名前の由来が知りたいです……いや、もちろん1%ERが由来なのは分かりますけど、なぜプラス1ポイントで2%ERなのか? 当然、軽い意味ではないと思います。
※1%ERの意味については、シルバーアクセサリーブランド「Atelier Shima」のブログに詳細が載っています。詳しく知りたい人はコチラをチェックしてください。
山口「もちろん由来は1%ERです。僕のなかで1%ERというのはとても洗練された流行の発信源というイメージがあります。だけど僕はアウトローではないですし、1%ERを名乗って彼らのような生活はとてもできないです。ただ、流行に流されたり、誰かと張り合うのではなく、身の丈にあった価格で、自分の生活の範囲内でバイクを、ツーリングやカスタムを本当に楽しめている人って、じつは少ないんじゃないかと思ったのです」
編 ― それが2%の人たち?
山口「そんな人たちって、じつはバイク乗り全体の2%くらいしかいないんじゃないかな? って。でも自分たちはそうでありたい。心底バイクを楽しむ2%ERになって欲しいという想いから名づけました」
編 ― なるほど。それが2%ERなんですね。
山口「そういうことです。これを人に話したのって、たぶんはじめてですよ(笑)」
編 ― 光栄です! 続いてお店のコンセプトをお聞きしたいです。よく雑誌なんかで「B級チョッパーが得意」なんて書かれていますが、僕は2%ERは決してB級チョッパーだけの店とは思えない。
山口「まず、スタイルの押しつけをしないことが大前提。そしてチョッパーやボバーとか、いろいろなスタイルがありますが、そのなかで一番乗りやすく、一番安全なカタチでそのスタイルを作るということを心がけています。やっぱり純正のバランスを崩すわけですから、カスタムには大なり小なりリスクがあります。だけど、そのリスクをなるべく少なくしたい……そう思っていますね」
編 ― カスタムパーツもやはり、そのあたりのことは気にされている?
山口「もちろんです。パーツに関しては、基本的にはあったらいいなと思うものを開発しています。オリジナルパーツの原点はウチのホームページで紹介している59番の車両で、シッシーバーやステップ、フロントフォークジョイントなどですね。これはたとえば旅に行くのにシッシーバーがないと困るし、楽に乗るためにミッドステップは絶対必要。で、僕はけっこう飛ばすので直進安定性を出すためにフォークジョイント……というのがスタートです」
編 ― スタイリング重視と思いきや、意外……といったら失礼ですけど、走り重視のパーツなんですね。
山口「そう。北海道ツーリングとか、とにかく移動するだけというときは僕は時速1●0km巡航とかで走っちゃう。その時にノーマルフォークだとちょっとした段差でもフロントにガッツンと衝撃を食らうと暴れまくるじゃないですか。だけどロングフォークでケツを落としておくと絶対そうはならないので……という感じ。本当にがっちりした作りのもの、耐久性の高いもの……ここにはやっぱりこだわっていますね」
編 ― なるほどですね。他にこだわっているポイントは?
山口「ちょっと話がズレるんですけど、これは何故ウチがSRをやっているかという話にも繋がるんでいいですか?」
編 ― もちろんです!
山口「SRって、頑張れば高校生でも買えるでしょ? 素材がいいから、おじさんからも『いいバイクやね』って言われる。そんな素晴らしいバイクでありながら……僕自身がそうだったんですけど……若い時の内側からみなぎってくる情熱みたいなものを、価格が安いだけにぶつけやすいと思うんですよ。つまりそれがカスタム。だってバイクに乗る以上は、これが俺のバイクやと喋りたいわけじゃないですか。それがカスタムバイクなら尚さらですよね。世の中に認めさせたい。それがSRやと作りもシンプルやし、丈夫で潰れにくいですしね」
編 ― 誰もがカスタムを楽しめる?
山口「別に改造しなくてもいいんです。SRはバイクとしても十分に楽しいと思いますしね。だけどプラスとして自分の個性を出そうと思ったらSRにはいろんなものがありますから。ウインカー1個、レバー1個変えても、すごく楽しいと思うんですよ。それがさらにコレ(注:2%ERのHP・59番の車両)やったら、『かっこ良くて荷物積めるやん』とか『ノーマルステップはいつもロングのときはクランクケースに足置いちゃうけど、ブレーキ踏まれへん……でもミッドステップは自然と置きたい場所に足を置けて楽や』みたいな。こういうスタイルと実用を備えたパーツをつけて、ちょっとでも距離を走ってもらって、バイクと一緒の生活を楽しんでもらえることができたら、それってすごく幸せなことなんちゃうかな? って。若い子らはお金ないですし、ワンオフでも作れますけど、そんなことしなくてもカスタムを楽しめるよ……この辺がウチのコンセプト。パーツ作りでもフルカスタムでも、全部に通じるコンセプトですよね。あとはもう、とにかく疲れない乗り心地ですよね」
編 ― じつはハードテールも乗り心地にこだわっているという?
山口「もちろん最初は見た目から入りましたけどね。だけど、よくあるコンパクトなSRチョッパーだと、ハーレーとかに比べるとネックからシートの距離が短いんですよ。要は窮屈。そこに短いリアショックをつけると、窮屈な体勢やのにガツっと突き上げの衝撃が加わって……乗っていると本当にしんどいんです。そこでシートの座面を広く取って、シートスプリングを入れてやると、ガチガチのショートサスよりもシートスプリングの吸収の方がよっぽど優れているんです」
編 ― たしかにショートサスはしんどいですね……。そこでリアサスの代わりにシートスプリング?
山口「そう! シートのスプリングはショートサスより動きは上ですし、ハードテールにすることによって座面を広く取ることができるんです。すると、ツーリング時にお尻を移動させられるんですよ」
編 ― ポジションに自由度が生まれるということですね。
山口「そうそう。僕が意識してやっているのが、オーナーさんにまたがってもらって、シートスプリングがしっかり動くかどうか。オーナーさんの体重で、支点・力点・作用点の位置を変える。そしてスプリングの位置を変えるにしても、より柔らかくしたり、硬くしたり……ショートサスではできない動き方をするんですよ」
編 ― ショートサスでもハードテールに比べれば、サスペンションがあるだけ良いと思ってたけど、じつは違うんですね。目から鱗です。
山口「たとえば身長175cm前後の人だと、手足の長さにもよりますけど、だいたいミッドステップにしてもらうか、ミッドフォワードにしてもらうかを決めます。そのうえで好みのハンドルバーを聞いて、それを踏まえてある程度、シートの取付け角度を決めていきます。加速するときに上半身がGで持っていかれるでしょ? それが窮屈なポジションだと上半身に無駄に力がかかって、意外と疲れる。そこで加速した時にピリオンパッドに腰が当たるように設計したり、スプリングがちゃんとGを吸収するように調整したりします。他にもミッドステップやったら、ハードテールでも前方にちょっとギャップがあっても踏ん張れるからお尻を浮かしてもらうようにレクチャーしたり……。いろいろ追求していくと、全然ハードテールでも乗りやすく作れるんですよね」
編 ― やっぱり日頃から走りまくっている山口さんだからこその視点のような気がします。
山口「じつはこれも北海道にリジッドサスで行った時に気づいたことなんですよ。『これはできるな』と(笑)。オーナーの体型に合わせて、さらに手の長さとハンドルの形で体がどう傾くか、どうのけぞるかを確認しながら作っていけばイケると分かったんです」
編 ― 実際にオーナーさんの評判はどうですか?
山口「今までボバースタイルのショートサスで1日150kmも走ったら『しんどい』と言ってたお客さんにハードテールを作ったんですけど、今じゃ1日600kmも走りますよ(笑)。イメージだけで『ハードテールなんて乗りにくい』なんて思わずに試してみてほしいですね。バイク屋さんにしても「こんなん乗れない」なんて言わずに、努力すればきっと良いものってできると思います」
編 ― 今後の展望についても聞きたいです。
山口「いま、国内市場が低迷しているので、僕らも海外に目を向けなきゃいけないと思っています。そこで現地の人たちに『日本のバイクって何なの?』って聞かれた時に、やっぱり僕はSRが筆頭だと思うんです。こんなに楽しくて、オールマイティーなバイクなんだから、世界に知らしめたいじゃないですか! で、世界中の人たちに『いいな』と思ってもらって、世界でSRを共有して、遊んだり情報交換したりしたいですね」
編 ― たしかに山口さんはここ数年、タイやインドネシアのカスタムショーにも精力的に出かけてますもんね。今後はショーへの出展やパーツ販売など、ビジネスとしても展開されるということ?
山口「海外に行ったら、日本のビルダーってすごく注目されているんですよ。それはもう、肌で感じます。だから今後は通販の強化や新しいスタイルの打ち出しとか、日本人として世界を向きたいなと考えています。そのためにも来年(2019年)もまた台湾とタイ、インドネシアのカスタムショーに行く予定です。通販もドイツやロシア、アメリカにオーストラリア、韓国、マレーシアと、いろんな国から問い合わせが来ます。でも正直なところ、物を売るだけじゃなくて、バイク乗りとして彼らと触れ合いたいですよね。とくに東南アジアはストリートカスタム全盛の、20年前の日本そのままの雰囲気があるので面白いですよ! 活気もありますし。僕は仕事するなら、そういうイキイキした奴とやりたいんですよね。もちろん物価も違うし、お金もない国なんで、こっちの利益なんか全然ないですけど(笑)。でも楽しいですし、日本のバイクで価値観を共有できるって、めっちゃいいことだと僕は思うんです」
編 ― たしかに元気はありそうですね! ネットや雑誌で見ると、カスタムショーのバイクも発想からして飛び抜けている(笑)。
山口「そうなんですよね! だけどね、ほんまは日本の若者にこそバイクに乗ってもらいたい。『バイクは楽しいよ』って伝えたい。それはもう、ぶっちぎりで一番大事に思ってることですね」